そう、男の子は本もズタズタに引き裂いていました。泣いている子供の前に、破かれた絵本の1ページが立ち上がります。そして今度は、物語の主人公がゆっくりと現れます。

11.絵本のお姫様の憂い

L'ENFANT ET LES SORTILEGES


 




ハープの音に導かれて
登場したのはお姫様です。
泣いていた男の子はあこがれのお姫様が現れたので
ちょっとびっくり。
でも内心では少しホッとしたのでは?
「あ、彼女だ、お姫様だ!」
と声を上げます。

お姫様は物憂げに歌い始めます。
「そう、あなたのお姫様よ、
あなたが昨日の夜中に夢の中で呼んでいたお姫様よ。」
伴奏はフルート1本だけです。
「昨日の夜に読み始めたばかりなのに
あなたはもう私に夢中になってしまったわね。」

男の子は嬉しそうにまたつぶやきます。
「彼女だよ、お姫様だよ」と。

でもお姫様は嬉しそうではありません。
「でもあなたはその本を破いてしまった。
だから、私の今後の運命はもう分からなくなってしまった。
あなたはそれで良いの?」
ここから伴奏が急ににぎやかになります。
お姫様の感情が高ぶってきたのですね。
初めはバスクラリネットとバスーンという低音楽器。
しばらくすると今度はクラリネット。
さらにフルートへと楽器が変わり、
二人の感情がさらに高まっているのが分かります。

男の子は震え始めます。
「お願い、ここにいて!
青い鳥がとまっていた木はどうなったの?」

お姫様は答えます。
「ご覧なさい、このビリビリになったページを。
木の枝も木の実もみんなこんなになってしまった。」

子供「魔法のネックレスは?」
お姫様「壊れてしまったわ。」
子供「あなたの騎士は?
黄金の兜(かぶと)を着た騎士は?
彼があなたを守ってくれるよ。」
ここではついにファンファーレまで聞こえます。
「剣があれば僕があなたを守ります!」
ここまでオーケストラはどんどん盛り上がっていたのに、
男の子のこの一言で途切れてしまいます。

また
フルート1本だけの
寂しい伴奏になってお姫様が歌います。
「弱いあなたに何が出来るの?
夢は長く続くのよ、
その果てに、
あなたが私の本当の王子様になっていたかもしれないのに。」

するとまたハープが
地の底から湧き出るように鳴り始めます。
大地がお姫様の足下で口を開け
お姫様を飲み込もうとします。
お姫様が叫びます。
「助けて、また眠りと夜の国に閉じこめられてしまうわ!」

男の子は「剣をよこせ」と叫びますが、
何の効果もありません。
お姫様は大地へと飲み込まれてしまいます。



男の子はまた一人取り残されてしまいました。

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